カテゴリー「育児」の記事

新生児の胎便“かに屎”

新生児の最初の黒い便を「胎便」というが、古くからカニ便、カ二屎、カニババなど呼んでいた。

古来より出産、産児に関わる言葉に“かに”という語を付けつてきたが、その一つが“かに便”、“かに屎”、“かにばば”である。

ではなぜ“かに”なのだろうか?

「日本書紀」の神代の物語にある神武天皇の父の出生にまつわる話によると、

山の神“彦火尊”(ヒコホノミコト)、山幸彦は海の神の娘“豊玉姫”を妻とした。出産間近、山幸彦が海辺に産屋を急ごしらえしたが、鵜の羽を葺き終わらないうち、ワニ(鮫)になった母豊玉姫から元気な男の子が生まれた。名付けて彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)とした。また「古事記」では天津日高日子波限建鵜草葺不合命(あまつひたかひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)となっている。

名が示す通り、渚の産屋が完成するのを待ち切れず活きよく生まれた元気な子であった。

「古語拾遺」の一節に

“天祖彦火尊、海神の女豊玉姫命を娉(ま)ぎたまひて、彦瀲尊を生みます。誕育したてまつる日に、海浜に室を立てたまひき。時に掃守連が遠祖天忍人命、供へ奉り陪侍り。箒を作りて蟹を掃う。仍りて、鋪設(しきもの)を掌る。遂に職となす。号けて蟹守と曰ふ。”

とある。

天忍人命(アメノオシヒトノミコト)は蟹を産屋に掃き入れたのだが、なぜ掃き入れたのか?

蟹の脱皮は命の再生であり、その蟹のもつ霊力の借り元気で丈夫な子が誕生の手助けをしたと言うことであろう。

また最初の黒い胎便は脱皮を連想させるものかも知れない。この胎便を出し切ることで真の脱皮を果たし完全に生まれ変わるという事を古代人は感じていたのであろう。

出産、新生児にかかわる言葉に蟹を付けるのは、「元気でありますように」という祈りが込められているのです。

私の勝手な推測ですが、

鳥には聖なるものを守護する霊力があると古代人は感じていた。例えば聖なる神社を守る鳥居のように。

鵜草葺不合命の誕生の時、鵜の羽を葺(ふ)いて渚に産屋を建てたのですが、聖なる水の神豊玉姫を守るには水鳥鵜の羽が相応しいということではないのか。

ーbyおがわさかえ

【関連事項】

“胎毒下しのすすめ” 

“乳幼児のアトピー性皮膚炎”

■古語拾遺(こごしゅうい)■
日本の歴史書。奈良時代の官人・斎部広成(いむべのひろなり)が大同2年(807年)に編纂したもので、全1巻からなる。
忌部(いむべ)氏の歴史と職掌からその変遷を述べられている。
天地開闢から天平年間(729年ー749年)までが記されており、記紀には見られない斎部氏に伝わる伝承も取り入れられている。
また祭祀が中臣氏(藤原氏)に集中しているのは不当であると述べ、斎部氏の由緒を明らかにしている。

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胎毒下しのすすめ

胎毒下しのすすめ(胎毒性お血とその経時的観察) 
by小川新 [OGAWA Arata] (1995)

はじめに

新生児の便を胎便と言う。
誕生後すぐ服用する所謂胎毒下しによって無病ないし少病の人生を歩むことが理想的であるが、この胎毒を無視することによって起こる新生児アトピー性皮膚炎を経時的に解析してみた。

私は、1980年日本瘀血学会の第1回大会に於て、催瘀血因子10項目のうちの第1項目に挙げておいたのは、胎毒性瘀血であった(表1)。

18年前から、甘草*g黄連*g大黄*g紅花*g連翹*gをエキスを紙ティーパックにして新生児に与えることを行ってきた。私のこの胎毒下しを服用した乳幼児には、アトピー性皮膚炎はなく、風邪をひくこともなく、丈夫に成長し家族に喜ばれている。

色々な機会に於て、このようなことを実行するように、胎毒下し入りパックを学会の医師たちに配布し、産婦人科医に勧めてきた。しかし、どうも理解できないらしく、実行されるに至らなかったことは、嘆かわしいことである。
日本では五六十年前までは、大衆も知っていたことで、胎毒下しを売り出す製薬会社もあった。大戦後、アメリカの医学が導入されるに至り、産婦人科医・小児科医、そして勿論一般大衆もこのことを知らなくなった。

その様な中、近世でも、昭和の漢方復興運動に力を尽くされた石野信安先生は、産婦人科医として長年にわたり、胎毒下しを実践され、乳幼児の健康に貢献されていたという。現在、日本瘀血学会に於てもこの点に関心を持たれているのは、瀬長良三郎先生のみである。先生は、「小児科領域における瘀血について」(瘀血研究4・5号p.123ー129)で、小児期の抗瘀血治療は、将来の動脈硬化症の予防につながるから、所謂成人病に重要な意義を持つことが再確認されなければならないと言い、瘀血をきたす小児疾患群として、次のものをあげている。

1)血小板異常・出血凝固異常・皮下出血
2)慢性肝障害・慢性肝炎・肝硬変症
3)自律神経失調症
4)慢性腎不全・腎炎
5)薬剤副作用・中毒(ステロイド剤投与後クッシング症状)
6)重症感染症・川崎病等
7)食中毒
8)貧血
9)慢性代謝性疾患・高脂血症
10)外傷
11)腫瘍

まことに立派な論文である。

私は、「瘀血研究1号」(1980年p.93-109)に於て、催瘀血因子として、次の10項目を発表した(表1)。その第1項目に胎毒性瘀血をあげている。成長するにしたがい、そこに第2項目以下第10項目までの因子が加わることによって諸種の難治性疾患を形成することになると考えている。

■表1 催瘀血について
1)胎毒性瘀血(遺伝性)
2)感染性瘀血
3)治療薬剤性瘀血(副腎皮質ステロイド)
4)外傷による瘀血
5)産褥性瘀血、更年期障害
6)冷房ないし生活環境性瘀血(冷房、無体動による水滞性瘀血)
7)外科手術および放射線による瘀血
8)毒物性瘀血(砒素、キノホルム等)
9)食毒性瘀血(飲食過度、肉偏食)
10)気毒性瘀血(気滞→血滞による腫瘍、癌等

1. 胎毒下しの意味について

昔から、出生後母乳を飲む前に胎毒下しをまず服用することが、大切であると言われているが、最近は、乳児室と母親の入院室が分離しているので、産科医の理解なしでは、これは実施出来ない。しかし、数日後でも良いから胎毒下しを飲ませることが大切である。最新鋭の医療機器によって新生児の胃内の汚物を吸引しても、このような物理的吸引だけでは、胎生期の腸内の汚物は取れないし、分娩時間が長引くことによって飲み込んだものは腸に入り、2週後には発熱し、黒い便を出して解熱するというような症例が時々ある。これは胎毒に起因することは小児科医も気付いていないようである。

明の虞天民は、麻疹は胎毒が体内にあり罹患するといい、天然痘の原因は胎毒にあると言っている。私はこの説は間違っているように思う。麻疹に罹患しても、助かる人と死亡する人の差異、重症と軽症との相違点は胎毒の有無によってではないかと思われる。

日本の有持桂里は、その昔、方輿輗(ほうよげい)に於て、

初生のときの口中の悪血泥瘀汁、即ち悪血を嚥下していることに問題がある。その悪血は腹に入り、次第に凝血し、膈上から心下に入り、二、三か月すれば臍傍少腹にまで下って塊結をなすものである

と言っているが、私の臨床研究に於ても臍傍から少腹にかけて瘀血性抵抗を持つ小児が多いことは事実である。

  • 虞天民(虞摶(ぐたん))/1438年~1517年(明)/著書:「医学正伝」(いがくしょうでん・いがくせいでん):1515年(明)
  • 有持桂里(ありもちけいり):阿波の人/宝暦八年(1758)〜天保六年(1835)/文化九年(1812)/知恩法親王侍医/折衷派/著書「方輿輗(ほうよげい)」

2. 胎毒の経時的観察

(1)新生児期

この胎毒が毒として二三週後から新生児の体表に現われるのは、まず頭や顔面の湿疹である。
それは、胎毒下しを投与していないか、投与が徹底していないからであるが、殆どは投与していない場合である。日本に於ても、民族の英知として長年にわたり新生児に投与していたことを知らないという現状である。それを簡単に皮膚病として体表のみの疾患として誤認している。現代皮膚科学の認識に立って治療しているときには容易に治らず、数年、十数年、二十数年にわたり副腎皮質ホルモンの塗布にたよる姑息的治療に上って治癒し切らないで難渋している青少年・子女が多い。これを胎毒下しで生後1か月以内に治し切る人、治さないで二十数年も苦しむ人があり、アトピー性皮膚炎の天国と地獄を見るような気がする次第である。

(2)三四才の頃

腹証からみるに左鼠蹊部や右肋骨弓下に抵抗があり、圧痛がある。それは、軽症重症の風邪を引きゃすく、感染性疾患を誘発し易く、反復して罹患する。小児喘息にもなり易い。(図1)

(3)五六才の頃

小学校に入学する六七才の頃にはこの腹証は更に明らかになる。即ち、鼠蹊上部の抵抗圧痛がはっきり出現し、その範囲も広くなり、右肋骨弓下部の抵抗も大きくなって圧痛もひどくなる。この頃では、アトピー性皮膚炎は更に重症化し、皮膚炎にとどまらず、喘息や扁桃腺炎を反復しながら、中耳炎、副鼻腔の蓄膿症などをおこす。次第に感染症に対する抵抗も少なくなり、肺炎・川崎病・膠原病・脳脊髄膜炎などの重篤な疾患に罹り易く、腹証でも胸に熱をもつようになる。(図2)   

(4)12-13才の頃

女子は、月経がはじまるころになるとアトピーは更にひどくなる。月経の周期も不安定で、月経痛が激しくなることも多く、月経不順も重症となる。簡単に見える風邪であっても、感染性疾患であっても、抗生物質・解熱剤によって簡単に治癒しなくなる。原因不明の微熱に悩むことになる。
肝炎・腎炎・肺炎・ロイマチス疾患・血液疾患をおこし易く、次第に難治性となる。(図3)

(5)20〜30才の頃

この頃になれば、女子は、卵巣・子宮、男子は、前立腺に炎症性疾患を持つようになり、生理不順や排泄異常を起こすようになる。アトピー性皮膚炎は、表面からは軽快したように見えるが、実はその病態像は裏に入ることによって、本格的な肝炎・腎炎となり、難治化することになる。諸種の膠原病も発病し易く、乳癌など癌性疾患も起こし易くなる。女性ならば、流産・早産など妊娠・出産に難渋し、産褥性疾患にかかり易く、子宮筋腫も早くから発病する。そして、肝臓のみならず、肺や脾胃の疾患を相剋的に伴うことになる。(図4)

(6)50〜60才以上

アトピー性皮膚炎は完全に裏に入り、五臓六脈の疾患を起こすことになる。一見、健康そうに見えても婦人及び男性において泌尿・生殖器疾患をおこし易く、軽症の場合でも、子宮筋腫・更年期障害・前立腺肥大をおこし、癌疾患の危険性が増大する。この期に入れば腹証は図の如く(図5)、

イ)肋骨弓下の圧痛はなくなり、脇下硬のみとなる。
ロ)下腹は鼠蹊上部の圧痛は軽くなり、範囲も狭くなったように見えるが、その抵抗は深く注意しないと見逃しゃすい。しかし、恥骨上部から膀胱部にかけての抵抗は強くなる人が多い。
ハ)心不の腹証は、左右の脇下硬の間にはさまれた心不の中央部に於て心及び脾胃を障害してくるので、肝炎・肝硬変症・肝癌・肺癌・心臓病及び脳卒中風の予防治療に於ても脾胃を無視しては弁証も治療も成り立たないわけである。

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乳幼児のアトピー性皮膚炎(胎毒下しを中心に)

乳幼児のアトピー性皮膚炎(胎便と胎毒下し)

新生児に対し、なぜ胎毒下しが必要なのであろうか。それは伝承された英知として現代も世界各地で行われている。

しかしどういうものか、ヨーロッパ医学の進歩している国々では少なからず無視されている。日本もその一つである。産婆学の科学的な進歩は喜ばしいことである。しかしその反面英知を喪失していることに気付かないでいるのは、まことに嘆かわしい。

ある時、産科を主に産婦人科を開業している某県の日母の会長をしている友人に胎毒のことを尋ねると、「君、近代の産科はそのようなことは必要ないよ。近代設備が完全に備わっている○○市民病院を見てごらん。分娩時の新生児が飲み込んだ物は胃から完全に吸引することができるようになっているから大丈夫」と言う。

そこで私は次のように反論した。

「分娩時の汚物を吸い込んでいれば吸引も必要なことだが、私の言う胎毒は主として脱落した腸粘膜(古典では腸垢という)を言うのです。皮膚と同じよ うに腸粘膜は毎日新生し、脱落していることを考えて下さい。それは生理的に胎内でいつも行われているのです。君の話はどうも胎児の病態生理を知らないよう ですね」。しかし友人はそれでも納得してくれなかったのである。

現代のアトピー流行は、この胎毒下しを行わないことに大きな原因がある。胎毒の少ない子供は母乳を飲みながら自然に排泄するが、これだけではいけな い。一度胎毒下しを行っておかなければ、一二週間ないしは一二カ月ごろからアトピーが出ることが多い。そこで初めて治療に入るのだが、私はアトピー性皮膚炎とは呼ばずに「胎毒性皮膚炎」と呼んでいる。

その治療は、胎毒下しの方剤を加減したものを用いており、簡単である。しかしこの乳児の皮膚炎をステロイド使用による治療で誤魔化していれば、その 後二三十年というように長期にわたり疾病に悩むことになる。そして皮膚のみならず、あらゆる疾患を誘発する原因ともなる。胎毒には催お血性があり、幼少期 から一生にわたりいろいろな疾患を生む。乳幼児期の一番大切な時に体内毒物の排泄を怠っているためたいへんなことになるのである。

1. 胎毒下し生薬構成

胎毒下しは、初乳を飲ませる前に一二回飲ませれば理想的であるが、産院分娩の場合、ヘビールームと母親とが隔離されているので、多くの場合退院後に服用することになる。

胎毒下しの原方
大黄*g、黄連*g、甘草*g、紅花*g、連翹*g

(胎毒下しは上記分量を煎じ、ガーゼなどに浸して吸わせるとよい)

2. 年齢ごとのアーピー性皮膚炎処方
(注意事項は必ず参照のこと。症例2,3,7は胎毒下しを基本とする処方である)

※注意事項
1)胎毒下しは大黄が入っているため、便軟らかく回数の多い乳児には、大黄を去ること。
2)下痢気味の乳児では、五苓散を主としてそれに茵陳蒿、荊芥、連翹、紅花を加える。
3)大黄の入った胎毒下しでも茵チン蒿を少量加えるとよく治る。それは現代の新生児は黄疸気味であることが多いためである。在来の胎毒下しだけでは、アトピーの予防および治療が完全でないのはこの理由による。
4) 大黄の入った胎毒下しを、漫然と一二週間服用することは禁忌である。それは脱水症状を起こすためである。大便の出かたによって一二日の頓服的服用が重要で ある。特に生後一〜二週の間にアトピー予防として服用する場合は、一日だけでよい。下した後下痢が治まらない時は、五苓散エキスを服用する。
5)清熱作用を強める目的として、十薬、茵チン蒿を加えるとよい。
6)外用として、中黄膏、紫雲膏(当帰抜き)を適宜用いる。ステロイド離脱時の重症例には、甘草*gの煎じ液をガーゼ等で塗布する甘草湿布が有効である。

・1ヵ月
症例1:黄疸(光線療法、交換輸血後)。喘鳴。鼻閉。
処方  [茵チン蒿湯エキス%g半夏瀉心湯エキス%g]×7週投与のあと[1/6茵チン五苓散加連翹%g川芎%g甘草%g荊芥%g蒼朮%g紅花%g黄連%g]x5週

・2ヵ月
症例2:顔に湿潤性湿疹。便秘(3日に1回)
処方  [大黄*g紅花*g黄連*g連翹*g甘草*g]、1週投与のあと[*四苓湯加黄連*紅花*荊芥*甘草*連翹*]×1週

症例3:耳・顔に湿疹。黄疸。便(1~2日に1回)
処方  [大黄*紅花*黄連*連翹*甘草*茵チン蒿*]x3週

・4ヵ月
症例4:顔首肩に湿潤性湿疹。軟便。新生児黄疸。
処方  [茵チン五苓散加連翹*黄柏*甘草*荊芥*十薬*紅花*]×7週

・6ヵ月
症例5:眼周囲・肘・背中・胸に湿疹(軽度)
処方  [連翹*白朮*川芎*紅花*黄柏*黄連*山梔子*甘草*]×24週

症例6:顔・首に湿疹
処方  [連翹*蒼朮*川芎*紅花*山梔子*甘草*茵チン蒿*十薬*]×7週

・1歳
症例7:体に時々皮疹。便少し硬。陰嚢水腫。
処方  [大黄*紅花*黄蓮*連翹*甘草*]×3週

・1歳8カ月
症例8:そう痒感。かぜで喘息。便秘(2~3日に1回で硬い)
処方  [連翹*,荊芥*,紅花*,大黄*,川芎*,黄芩*,黄連*,黄柏*,白朮*,甘草*]x2週

・5歳
症例9:手足の湿疹。生後8ヵ月の頃、臀部を中心に湿疹。喘鳴。がい嗽
処方[1/3竜胆瀉肝湯(薜己 セツキ)加茵チン蒿*十薬*]×3週

症例10:背中から肩にかけ皮疹。そう痒感。
処方:[連翹*荊芥*甘草*十薬*茵チン蒿*紅花*桔梗*]x現在投与中

by小川新_2000年9月_[ 掲載「東洋医学」第28巻第9号 ]

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