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下腹部瘀血と腰椎骨盤のX線像について

[広告]月刊誌「ナショナルジオグラフィック日本版」

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1980年2月「第1回瘀血総合科学研究会」発言
下腹部瘀血と腰椎骨盤のX線像について
小川新

目次

 序
 1. 催瘀血について
 2. 催瘀血因子
   2-1. 胎毒性瘀血(遺伝性)
   2-2. 感染性瘀血
   2-3. 治療薬剤性瘀血
   2-4. 外傷による瘀血
   2-5. 産褥性瘀血
   2-6. 冷房ないし生活環境性瘀血
   2-7. 外科手術および放射線による瘀血
   2-8. 毒物性瘀血
   2-9. 食毒性瘀血
   2-10. 気毒性瘀血
 3.骨盤、腰椎のX線像と腹証
   3-1. 撮影方法
   3-2. 骨病変の見方
   3-3. 骨病変の種々相
   3-4. 症例
   3-5. 瘀血の腹証
   3-6. 病名別腹証と骨病変について
   3-7. 瘀血と動脈硬化
   3-8. 瘀血の遺伝的関係
 4. 結語

 ■質疑応答

私は、いつも馬鹿のひとつ覚えのように瘀血、瘀血と言っているのであるが、外科出身の者であるから、外傷による瘀血については、特に関心を持っている。

外傷性瘀血にも、受傷2~3か月後の新しいものから、50年も経過したと思われる陳旧のもの等、種々様々である。しかし、案外に無視され続けてきた外傷性瘀血の存在に対する注意を喚起するために、敢えて潜在性という名称を冠して、“外傷性潜在瘀血障害”と呼ぶことを提唱した。

この瘀血は、『傷寒論』、『金匱要略』にいう瘀血ではないが、外傷性瘀血は、放置すれば臓腑、経絡に機能障害を起こし、いろいろな疾患の基礎になるので、我々に無視することを許さない非常に重要な問題を含んでいる。様々な内科疾患、すなわち高血圧症・腎炎・肝炎・糖尿病・脳血栓・心臓の虚血性疾患等において、外傷性瘀血が基礎となって発症したものが多い。このことは所謂病名で疾患像を理解せんとするときに陥りやすい盲点のひとつではないかと思う。
本日は、下腹部瘀血と腰椎、骨盤のX線所見についてお話ししたいと思う。

胎毒性のものを含めて、いろいろの誘因によって瘀血が形成されるわけであるが、瘀血は骨にまで影響を与えていることが多く、その古いもの程、骨の変化は著明になってくる。

考えてみると、骨髄の血液循環が正常に働いていなければ、皮膚や筋肉、血管、神経は正常の機能を発揮できないようである。また逆に、皮膚および皮下組織、筋肉、血管系が働かなくては、骨循環は正常に働かないように思う。とにかく、骨髄と軟部組織とは互いに手を取り合って生きている世界である。

1. 催瘀血について

「催瘀血」という言葉は、昭和51年2月の日本東洋医学会中四国地方部会において初めて発表し、53年度の東洋医学会総会においてすでに述べたところであるが、その際、副腎皮質ステロイドの副作用のひとつとして、この薬物は瘀血を作るものだ、催瘀血剤のひとつであろうと発表した。爾来、このような観点から諸種の疾患について観察した結果、瘀血を催す要因について少しく整理し10項目にまとめた。次の如くである。

  1. 胎毒性瘀血(遺伝性)
  2. 感染性瘀血
  3. 治療薬剤性瘀血(副腎皮質ステロイド)
  4. 外傷による瘀血
  5. 産褥性瘀血、更年期障害
  6. 冷房ないし生活環境性瘀血(冷房、無体動による水毒性瘀血)
  7. 外科手術および放射線による瘀血
  8. 毒物性瘀血(砒素、キノホルム等)
  9. 食毒性瘀血(飲食過度、肉偏食)
  10. 気毒性瘀血(気滞→血滞による腫瘍、癌等)

しかし、これらの諾条件は、1.にいう胎毒性瘀血の因子が強い場合には、2.以下の諸条件が成立しやすい。すなわち食毒性を除いては、下腹の瘀血性抵抗の消長をみながら治療していけば逆にその瘀血の成因が理解されてくるわけである。

胎毒性のものを世間では、体質ないし遺伝という名で呼んでいることが多いように思うのであるが、親と子の骨盤X線像を研究してみると、骨盤の変形性変化が非常に似ており、腹証も似ている場合が多く、親が瘀血を持っていると、その親から生まれた子供には、胎毒という形の汚血を持っていることが多いようである。この汚血を持っていると、湿疹、喘息、腎炎、扁桃腺炎等、アレルギーないし感染性諸疾患に罹患することが多い。すなわち先天的汚血の上に、前述の諸条件のいくつかが重なり合って、さらに大きた汚血となり、瘀血の証を発症することになるように思う。

次に、これら催瘀血因子について、私の基本的な考え方を簡単に説明する。

2. 催瘀血因子

2-1. 胎毒性瘀血(遺伝性)

胎毒性瘀血と有地滋先生(近畿大学東洋医学研究所教授)の言われるHL-A免疫遺伝因子とは如何なる関係にあるかという疑問が生ずる。目下のところ、私の言う汚血および瘀血の考え方からすれば、この胎毒性瘀血は、HL-Aそのものではなく、HL-A免疫遺伝因子を含めたもっと広い範囲のもので、主として免疫異常を起こしうる血液(汚血)と言った方が良のではないか。この血液の解明は、前瘀血状態ともいうべきもので、予防医学にとって非常に大切な分野になると思う。

2-2. 感染性瘀血

外からくる諸種の感染性疾患に罹患した場合、炎症の後に、免疫性抗原抗体複合物や組織の繊維化等を残しながら、諸症状がしたときには、これを完全に治癒したように誤認していることが多い。
単純な偏桃腺炎や風邪、インフルエンザを度重ねているうちに、腹証においても、瘀血性抵抗を持つようになるというのである。
かくの如くして、発病した腎炎、ネフローゼ、気管支喘息(感染型)、肝炎、肺結核、多発性関節リウマチ、べ一チェット病、心疾患、高血圧、動脈硬化等諸疾患において、この瘀血を無視しては、治療医学が成り立たないように思う。また、そのような症例を多種にわたり経験している。

2-3. 治療薬剤性瘀血(副腎皮質ステロイド等)

現代使われている薬物で、副腎皮質ステロイド程副作用の強いものは他に類をみないであろう。その副作用として、満月様顔貌、骨壊死、胃穿孔、内分泌障害、免疫不全等諸種の障害があるが、私が臨床的に確かめた範囲では、これ以外に膀胱部および下腹部に抵抗が増大しており、ステロイドを漸減し、桂枝茯苓丸を投与するにつれて、大多数において、この下腹部抵抗とともに全身の浮腫がとれてくることをみても分かるのである。

何故ステロイドによって、瘀血性抵抗ができるのであろうか。ステロイドの使用初期には、腎機能も非常に活動的に働き、利尿作用も強いのであるが、しばらく連用するにつれて、逆に副腎皮質機能の障害を起こし、利尿作用も衰退して、全身の浮腫を起こすようになり、この水分代謝障害によって引き起こされた細静脈うっ血によって、あらゆる組織の繊維化が促進されるが、全身のうちで最も鬱血を起こしやすい下腹部臓器の静脈性欝滞が促進され、下腹壁に異常抵抗を生ずるのではないかと思われる。
その他、抗生物質、ピリン系解熱剤、精神安定剤、抗癩滴剤等、直接的直接的に肝腎の機能障害を来しうる薬剤は、投与量次第では瘀血障害を起こし得るわけである。

2-4. 外傷による瘀血

すでに外傷性潜在瘀血障害の種々相というテーマで論文を発表している(「漢方の臨床」18巻4-5号)ので、詳細はその論文を参照いただきたいのであるが、現代外科学においては、皮下、筋膜下、筋肉内、骨折部周辺における局所の出血巣の運命について、長期にわたって観察した研究がないというところに大きな欠陥があるように思われる。
その上、その局所の後遺的病巣が、全身の諸臓器にいかに影響して障害を発生するかについての観察がないわけである。

昨夜、病理学者の杉原芳夫先生は、私のこの論文を読み、私のいう局所の循環障害は、皮下における多発性の細静脈血栓症によるものであろうと指摘されたが、有難い提言であったと感謝している。
ただ私としては、この多発性静脈血栓は、皮下のみならず、軟部組織の一切、骨髄に至るまで発生しているのではないかと思うのである。僅かに骨に損傷があった場合でも、皮膚から骨に至るまでの軟部組織全体に損傷があり、この軟部の傷害を軽視し無視して、徹底的に治療を加えないでいれば、十年五十年という長期問の後に、臓器組織の大きな障害を発生せしめる誘因ないし原因となっていることに、気付かないこと甚だしと言わざるを得ないのである。

先日、心筋梗塞で大動脈一冠動脈バイパスの手術をうけた45歳の男子が来診したが、腰椎をX線撮影してみると、第2、3腰椎に骨折の痕(あと)があり、本人に訊ねたところ、20年前屋根から落ちたことがあったというのである。年来、腰痛を訴えていたとのことであるが、腰部外傷後の多発性静脈血栓が、心筋梗塞の原因的条件の大きな要因となっているのではないかと思う。ちょうどその頃、彼の手術を担当した主治医に学会で会ったとき、「バイパス手術は成功しているが、冠動脈の他の枝に、梗塞が再び発生しないという保証がないではないか。私はこの辺のところを研究しているのだが」と言って、駆瘀血剤のことを話したのであるが、短時間のために詳しく説明することができなかった。しかし、私の言うことが雲をつかむ事柄のように思えたらしかったが、私達は雲をつかんで雲の話をしているのであろうか。

昭和43年から45年に至る間の五千人の外来患者の中に、外傷性瘀血障害と思われる疾患は、226例(4.5%)にみられたが、受傷後の経過年数は2年以内20例、5年以内28例、10年以内51例、20年以内37例、30年以内36例、30年以上29例、不明29例となっていた。
瘀血の好発部位は、頭部、頸部、背部、腰臀部である。この局所瘀血を発見するには、徹底した問診と初診およびX線撮影が必要となってくる。局所の瘀血障害は、近接臓器への影響ばかりでなく、遠隔部位への障害を経絡的に観察することも必要である。

2-5. 産褥性瘀血

更年期障害精神的原因によっても、女性は生理不順を起こし、便秘するだけでも下腹部に瘀血を起こしやすい。
『金匱要略』には、婦人産後病脈証として、小柴胡湯、大承気湯、枳実芍薬散、下瘀血湯、竹茹湯、千金三物黄芩湯等の方剤が用意されているが、それぞれの病証に対しての治療が行なわれていない時には、病気は消褪したようにみえても瘀血を残すことが多い。これは、やがて更年期を迎えるにあたり、婦人科的ホルモン機能の自然的減衰が妨げられ、種々の疾患を併発するようになる。いわゆる自律神経失調症という名で呼ばれているものに移行していく。
また私が7、8年前から男性更年期障害と呼んでいるものは、前立腺肥大、前立腺炎等と表現される疾患以外に、下腹膀胱部の腹壁に強い抵抗がみられることが多く、若年者の悪性高血圧症もその中に入れて理解している。このような高血圧症は、心筋梗塞や脳出血を起こしやすく、降圧剤の効きにくいものである。
また、多くの高血圧症を診ているうちに、男性にも女性の更年期に対応する年代を境として下腹部抵抗を持った人が多く、駆瘀血剤を併用しなくては降圧治療が成り立たないことが多いことに気付いたわけである。副腎皮質ホルモンも微妙に減衰していることから、男性更年期障害と呼ぶことにしたのである。

2-6. 冷房ないし生活環境性瘀血(冷房、無体動による水毒性瘀血)

冷房というのは暑い夏に発汗せしめずに体温を調節しようとするので、返って暑くなる。暑いので更に冷房を求めることになる。かくして、まず足・腰が冷えることにより利尿や排尿障害を起こすことになる。この水滞が、瘀血を誘発することになる。(さらに、運動不足による肥満なども瘀血の要因となる)

2-7. 外科手術および放射線による瘀血

外科手術によって、剥離のための組織破壊、リンパ腺剥離除去のための血管周囲炎、後出血等のために、局所の循環障害を残す。いかように立派に手術しても、このことは免れ得ないことである。手術直後、できるだけ早い時期から、駆瘀血療法を行なうことは、癌の再発防止のためにも有効である。また近時、悪性腫瘍の治療に用いられる放射線療法を全面的に否定するものではないが、目的とする臓器の周辺も、このために甚だしく障害される場合が多い。時には、脊髄神経麻痺を起こし、癌のためではなくそのために死を早めることも屡々である。これも瘀血障害と呼んで治療の対象としている。

2-8. 毒物性瘀血(砒素、キノホルム等)

昭和31年頃、森永ミルクに砒素が混入していたために乳児に重大な障害を与えたことは、いまだに記憶に新しいことである。私はかつて砒素中毒の小兒を診たことがあるが、砒素中毒による胃腸障害が消褪したようにみえても、歩行困難を起こした小児を診るに、下腹の臍傍から臍下にかけて漢方でいう瘀血性抵抗が残っており、駆瘀血剤によってほとんど完治せしめたことがある。キノホルムによる脊髄障害もこの方面から研究を進めることにより、治療医学を開発する必要があると思う。このような瘀血に対しては、駆瘀血剤が有効である。それを知らないでは良い治療は成り立たないであろう。

2-9. 食毒性瘀血(飲食過度、肉偏食)

これは過度に飲食や、魚・肉類の過食によって起こるものである。そのつもりで診察しないと分からないものである。両方の季肋部に“飲食塊”が現われるということを、『腹証奇覧翼』(和久田叔虎)に述べているが、私たちの日常臨床において時に診ることがある。
肉類の過食によるものは、鳩尾より胸骨下部にかけて圧痛があり、心臓も肥大して、所謂原因不明の心不全となっていることが多い。しかしそのような患者の下腹部を診るに、臍傍および臍下部に瘀血性抵抗を持ったものが多い。
ひとつの症例を挙げてみる。35歳の男子で、左腎動脈の狭窄によって高血圧症を起こしている青年を診るに、両鼠径部に圧痛、抵抗があり、本人も自覚している程である。ここ10年間、毎日下痢する程、牛肉を食べたというのである。大学病院で腎動脈狭窄の手術を勧められている。このような下腹部瘀血は、肉食の過剰による腸の炎症と関係があると思うのだが、ここに気付かないでいれば片方の腎動脈を手術しても、反対側の腎動脈も狭窄を起こすことを防ぎきれないのではないかと思う。腹壁をもっと丁寧に観察してほしいものである。

2-10. 気毒性瘀血(気滞→血滞による腫瘍、癌等)

『素問』にも、「気の著く所、熱す」とあり、乳腺症を乳癌ではないかと心配して来診した婦人の場合、癌ではなくて乳腺症の上の皮膚に熱を持っていることが多い。外表に見えるものは、この気の動きによって肉体に及ぼす影響がはっきり見えるので分かりやすいが、内部臓器においては、継続的に見ることが不可能に近いので、この気による腫瘍の発生については、実際に見ることは難しい。しかし、胃潰瘍と胃癌の場合、病人の気質をみれば、大体鑑別診断ができることが多いのは、ベテランの臨床家であれば、理解できることである。
肺癌や子宮筋腫、子宮癌の場合にも、その病人独特の気質的傾向があるようだ。この点、心理学の方から、患者自身の無意識に持っている気質的傾向を浮び上がらせる必要があり、それを行なうことによって治療医学も有効なものになると思う。予防医学の面からも大切なことなので、将来この方面からの研究を待ち望む者の一人である。

以上催瘀血の因子についていろいろと述べたが、私のいう瘀血には、良性・悪性腫瘍も、両者ともに含んでいる。

3.骨盤、腰椎のX線像と腹証 (略) 

3-1. 撮影方法
3-2. 骨病変の見方
3-3. 骨病変の種々相
3-4. 症例
3-5. 瘀血の腹証
3-6. 病名別腹証と骨病変について
3-7. 瘀血と動脈硬化
3-8. 瘀血の遺伝的関係

4. 結語

催瘀血因子という言葉を新しく提示しながら、古くて新しい胎毒の問題および感染性、薬害性、外傷性、産褥性、食毒性、毒物性ないし手術後、放射線照射後の瘀血について述べた。
瘀血性腹証を持った 600 例について、その腰椎、骨盤のX線所見を解析し、統計的に観察した。
瘀血腹証における腹部大動脈の石灰化と高血圧について述べた。
瘀血の遺伝的関係を骨盤の骨病変の面から観察した。
瘀血の腹証を 8 種類に分け、病名別にみた場合の腹証の様相と骨病変について述べた。
瘀血の腹証は同じであっても、病名は異なることが多い。
瘀血の腹証、特に臍傍下腹抵抗と小腹不仁とは、骨病変の部位は腰椎・仙椎であり、ほぼ同じである。すなわち腹証における虚実というべきである。
腹証には治療によって変わりやすい部分と変わり難い部分がある。しかし、骨病変は容易に変わらない。
骨の変形・萎縮・硬化、骨粗鬆症などの骨病変の進展には個体差がある。また腹部大動脈の石灰化の進展にも個体差があるが、その原因は不明である。会員諸賢のご教示を請うものである。

■質疑・応答

森下宗司座長:

どうもありがとうございました。長年の蘊蓄を傾けられまして、特に瘀血を骨に求められたということでございます。
当然ご承知のことではございますが、骨というものは硬いものだ、変わらないものだと考えられています。ところがターン・オーバーを見てみますと、変化しないというのはそう長い期間ではございません。非常に早く骨は入れかわっておりますので、私は軟らかい、普通の軟部組織と同じように考えていたわけでございます。
3年前に(小川新)先生が名古屋にいらっしゃいまして、先程お話しになったように、いままで私が話しても一人も信用しないのだということを言ってらっしゃいましたが、私どもはお産のときにほとんどレントゲン写真を撮りますので、そういう写真ならたくさんありますからということを言ったわけでございます。私も後で、先生に教えてもらいながら、先生方にひとつは話題提供として少しレントゲンを見ていただきたいと思っております。
ただいまの小川先生のご演題に対して、何か質疑あるいは追加がございましたら、どうぞ。

Y氏(和歌山):

昨日からの瘀血とほかの代謝相とのお話、非常に興味深く拝聴いたしておりました。
いま先生の骨と瘀血についての興味あるお話に関連して申し上げたいのは、私は神経の変性疾患を調べておりまして、結局神経組織の変性病変に関連する一番大きた要因は骨と腎臓であるという結論に最近至ったことです。

骨は、いまおっしゃいましたように、単に支持組織であるだけではなくて、生体の chemical mediator として他の軟部組織に非常に大きな影響を持っております。その構成成分は hyroxyapatite という六方形の結晶構造を持つ物質、カルシウム、リン、およびそのほかのメタル、あるいは有機酸より成り、それが常時ターン・オーバーしております。そういう意味で、骨の変化というものが他の軟部組織の変化のひとつの mediator になり得るわけです。

私どもの領域では、神経の変性を起こす、例えば、老化と関連してくるパーキソン病などでは、殆ど100%近く osteoporotic な変化が出ますし、骨成分を調べてみますと骨成分が非常に微妙に変化しています。先生がそういう骨変化に着目されて早くから研究されて来たお仕事には非常に敬服しつつ拝聴いたしました。

もうひとつ付け加えますと、異常な血流の代謝産物がどのようにして吸収され排泄されるか、この二つの面がやはり瘀血症状を出してくるポイントではないかと思われます。その点で骨が瘀血症状の detoxifying(解毒)にどういうふうに働いているかということについて、もし何かお考えがございましたら、お教えいただきたいと思います。

小川新:

骨髄が、解毒に対してどのように働いているかのご質問は、現在の私には分かりません。
ただ、腎と関係する以上、腎臓と協力して毒の排泄面に働いているのではないかと思います。
免疫の面からみますと、B-cell の活性を亢めているのではないかと思います。
私としては、そのような先生のご疑問に答えることができるような発想を求めて、この会を創ったわけですから、よろしくお願いいたします。
現在の神経内科の先生方は骨のことを忘れている事をいつも残念に思っていたのですが、先生がこの方面に着目なさっていられることに敬意を表します。

Y氏:

と申しますのは、神経組織、軟部組織、腎や肝、あるいは筋肉などもそうですが、変性が起こってくる過程は、小動脈の周辺から、カルシウムおよびその化合物の沈着が非常に細かいミクロの粒子として発生し、徐々に実質組織に浸透していっています。
これを我々は microcalcification と呼んでおり、普通のレントゲンでは出ませんが、中性子で調べますと、浸透していっていることが分かってきておりますので、恐らく血管の透過性が亢まり、先程先生がお示しになられた血管壁の calcification は、骨から遊離されたカルシウムおよび化合物が沈着したものというふうに私どもは考えております。

小川:

なる程、血管の石灰化はそのようにして起こるのですね、お教え有難うございます。

私が骨に着目しましたのは、骨循環というものは、いつも脊髄循環と関連しているように思ったからです。
特に炎症による膿汁・椎間板・靱帯硬化症等、いわゆる脊髄神経に圧迫が加わり脊髄炎を起こすというふうに考えられる疾患群において、脊髄炎の原因は圧迫ではなくて、骨とともに起こっている脊髄の循環障害が多いように思うからです。またそのつもりで治療すれば、治癒しやすいという臨床経験からもますますそのように考えるようになったのであります。そして、その影響は、その脊髄分節区と関連する自律神経系、および胸腹腔の諸臓器に関係してくるように思っているのです。

I氏(京都):

瘀血の問題に関連するのですが、小川先生の骨の所見は大変 suggestive です。元来、瘀血は個体サイドからみた系統的複合徴候の一種の範疇に対して名付けられたものであって、瘀血の問題を血液成分の変化に求めるという立場は、瘀血を物質的に実証するためのひとつの method であって、それだけでは瘀血の問題の一部の相をつかまえているにすぎない。瘀血は狭くして広い問題だと思います。決して広いから瘀血の定義があいまいになるというものではないと私は思います。これはまた小川先生のご批判をいただきたいと思います。
骨の病変と瘀血証との関連は、やはり系統的複合徴候に対応する実体病変としての血管と血液と間葉系の広い視点からと捉えて頂いているのではないかと思うのです。そういう意味で、たいへんすばらしいご着目です。ご発展をお祈りします。

小川:

私の骨の研究も、瘀血研究の一部とは思いますが、今後ともよろしくお願いいたします。

F氏(鳥取):

正常な骨組織には加齢的変化は認められます。瘀血症において骨病変をどのような criteria で診断されましたでしょうか。

小川:

そのご質問は、大事なところです。年齢と骨変性とは人によって種々様々であり、また変形の部位も種々様々であることは、ご存知の通りです。しかし、何といってもまず加齢的変化を除去する診断法を述べることが、第一のことと思います。ある部位にのみ骨変形が強いという場合は、まず第一に外傷による骨変形を除外しなければならない。外傷性瘀血による変形は、外傷によるショックを受けた2ないし3個の椎体のみに変形があり、棘形成は中心になる椎体に向けてのみ発生しているので、ブリッジ状に4~5個の椎体にまたがるいわゆる変形性脊椎症とは明らかに区別することができる。外傷性瘀血による変形は、全脊椎骨、骨盤を診て、ある特定の部位が、他の部位よりは変形が強いことである。そこは加齢的変形ではない。最も多いのは、頸椎と腰権下部、および骨盤である。頸椎の変形は頸部における局所鬱血によるものであるが、この場合、頸椎のみというものは少なく、腰椎下部、骨盤に変形のあるものが多い。小腹不仁がある場合、他の部位に比して腰椎、骨盤に変形が多くて、強い。
下腹瘀血性抵抗ないし小腹不仁のない場合には、腰椎、骨盤の変形は少ない。講演で述べた腰椎、骨盤の変形部位はその周辺の加齢的変形に比して、病的に変化しているものであるから、加齢的変形を除外することは、それほど困難ではない。

F氏:

脊椎分離症でいろいろ治療を施して、症状が軽快しないときは、operation が必要ではないかと思っていた頃がありました。しかし漢方を学び、駆瘀血剤の投与により何十年来の腰痛が軽快する症例を数多く経験しました。先程見せていただきました脊椎スベリ症のレントゲン像では、骨萎縮、骨硬化等の変化が認められます。このような症例が駆瘀血剤により症状の軽快をみだとすると、骨病変と瘀血症とに直接的な関連がないように思うのですが・・・。

小川:

腹証による瘀血と関連したと思われる骨病変について述べましたが、駆瘀血剤によって腰痛が軽快したということは、骨病変が可逆的に良くなったということ、瘀血証のすべてが取り除かれたということでありません。疼痛除去に必要な条件がみたされたということであり、漢方病理でいう寒・湿・熱によって、筋・筋膜の過緊張、神経周囲の組織問液の欝滞等が正常化の方向に向かうにつれて簡単にとれることが多い。したがって駆瘀血剤によって症状が軽快したからといって、瘀血が全て無くなったのではない。また骨病変のある瘀血の腹証は再発しやすい。骨病変は体質的素因ともいうべきものが関与していますから。

F氏:

初めから瘀血があったかどうか分かりません。長年腰椎固定用軟性コルセットを着用していますから、痛みの原因は、西洋医学的には原疾患の他にコルセットによる廃用性萎縮も考えられます。当帰芍薬散投与により症状の軽快をみた腰痛症を、新しい瘀血と解釈すべきでしょうか。しかし、長い経過からしますと陳旧な瘀血のような感じもいたしますが。

小川:

陳旧瘀血の意味が問題であります。外傷による瘀血でも、何年経てば陳旧というのでしょうか。私には、はっきりしたことは分かりません。陳旧とは、少なくとも10年以上は経ったものとして理解しているのですが。陳旧のものは、骨病変の程度も強いようです。当帰芍薬散はもちろん新しい瘀血に用いるものです。

F氏:

腰痛症では10年、20年という長い経過で痛がっている患者があります。例えば約30年間脊椎分離スベリ症で苦しんでいた73歳の女性が当帰芍薬散でその症状の軽快をみました。このように長い経過をたどった瘀血をどのように解釈すべきでしょうか。

小川:

陳旧瘀血が存在しても、疼痛そのものは、腰部における水毒によるものが多いのです。瘀血があっても、それと同時に存在する水毒に対し、効果的な方剤を証によって投与しなければ、疼痛は除かれないことが多いのです。当帰、芍薬、川芎は血に働く薬物とされているが、茯苓、白朮、沢瀉は、停水を動かして、利尿に導く薬物といわれている。当帰芍薬散で軽快したからといって、古い瘀血が除かれたということにはなりません。

T氏(広島市):

それは、関連する筋肉の線の緊張がとれた場合でしょう。レントゲン的に病変が残っていても、痛みがとれる。私はそう解釈しています。

小川:

もちろん、それもございましょう。

森下座長:

時間が詰ってきたようでございますので、まだ質問される方が多いと思いますが、これで打切らせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

おわり

1980年2月「第1回瘀血総合科学研究会」にて

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