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老人病と瘀血〜経時的観察による予防と治療について

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[広告]月刊誌「ナショナルジオグラフィック日本語版」

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1990年第9回瘀血総合科学研究会シンポジウム「老人病と瘀血」
老人病と瘀血〜経時的観察による予防と治療について
(現代医学の漢方化、その2)
小川新(広島)

目次

 1.はじめに
 2.催瘀血因子について
 3.古典的診断法に基づく観察(相生相剋論について)
   イ)相生順伝の病の治療
   ロ)相剋七伝の病の実際
 4.骨と瘀血
 5.瘀血と骨粗鬆症について
 6.恥骨と骨萎縮について
  (A)女性の場合
    【症例1 】
    【症例2 】
  (B)男性の場合
    【症例3】
    【症例4】
  (C)胸骨に変形が著しい場合
    【症例5】
 7. 瘀血老人の腹証について
 8.腎を中心とした病態像とその治療について
    方剤
 9.老人病臨床に於ける特徴とその治療について
  (1)禁止事項:
  (2)積極的医療:
    不眠症
    健忘
    老人性痴呆養老について
 10.脳卒中殊に脳梗塞の予防と治療について
   1)中風の予防について
   2)治療方剤
   3)脳梗塞予防の症例
 11. 薬枕について
  (1)菊の薬能について
  (2)葉枕について
 12. 総括
 13. 結語

老人病と瘀血〜経時的観察による予防と治療について
(現代医学の漢方化、その2)
小川新(広島)

1.はじめに
老人には、その病態、経過、予後等には、青壮年期に見られない特徴がある。東大の老人病教授の折茂肇氏によれば、「第1に症候の発現の仕方が非定型的であること、第2には、多臓器の疾患が多いこと、第3には、生理代謝機能の予備力の減退により、臓器の機能不全が起り易いが、それは、検査では捕えられないような潜在的な発現の仕方をする」ということを指摘している。

それは、純粋に西洋医学的な観察によるものであり、それはそれとして真実な姿の一面をよく把握しているが、その同じ内容の老人病を古典的診断法を駆使しながら、古典的医療を実践している私達にとっては、西洋医学的診断や病態解析の裏に潜む実態像を深く理解しながら治療をすすめて行くという利点があることを忘れてはならない。

2.催瘀血因子について
それは、第1回瘀血研究会で発表したが、次の如く10項目に分類したものである。

  1. 胎毒性瘀血(遺伝性)、
  2. 感染性瘀血、
  3. 治療薬剤性瘀血(副腎皮質ステロイド)、
  4. 外傷性瘀血、
  5. 産褥性瘀血、更年期障害、
  6. 冷房ないし生活環境性瘀血(冷房、無体動による水毒性瘀血)
  7. 外科手術及び放射線による瘀血、
  8. 毒物性瘀血(砒素、キノホルムなど)、
  9. 食毒性瘀血(飲食過度、肉偏食)、
  10. .気毒性瘀血(気滞→血滞による腫瘍、癌等)。

このうち、老人に限らず人間誕生後に最初に問題になる所は、胎毒下しを服用することなく、胎毒を残したままで成人になる人が国民大衆の殆どになっていることである。生後まもなくから、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アデノイドなどに罹患し、腹証でも明らかな瘀血が存在する子供が急激に増加していることは、21世紀の時代をむかえるにあたり、実に憂慮にたえないところである。更に中学・高校・大学生となれば、男女にかかわらず、この胎毒性瘀血の上に、抗生物質のみに頼るためにおこる感染性瘀血や食毒性瘀血、外傷性瘀血なども加わって、病的な加齢現象を起しているようである。そしてそれが明らかになるのは、男・女共に50才を過ぎた頃からである。このことを漫然と体質という名で理解することは、現実の病態認識の経時的観察を見失っている者の考え方である。日本では、江戸時代からの習慣として1920年代即ち大正年間までは、新生児に胎毒下しを服ませていたが、昭和になってから全然行われなくなった。チベット遊牧民では、羊乳からとったチーズ様のものを飲ませて胎毒下しをしているといわれるが、こういった伝承の知恵は、世界の各民族において行われていることである。

さて、老人に於ては、心の悩み・苦しみ・喜・怒・哀・楽が肉体に影響を与えることが多いので、身心医学的考察による治療が特に必要となるようである。それは、第10項目の気毒性瘀血の範疇といってよいと思う。又、精神衛生的養生法も必要となって来るのである。

【中略】

12. 総括
健康な老人として生きるためには、男女共に50才以後のための予防医学が大切であるが、そのことを可能にするための経時的観察が必要なことを述べた。
その経時的観察を証として確実性のあるものとするためには、東洋古典医学的診断技術を学習し、修得する必要があることを痛感する。
催瘀血因子として、人間誕生のときに、胎内性瘀血を処理する必要性を説いた。
五行の相生、相剋論を利用した診断法の必要性を説いた。そして、相剋的七伝の病を予防することの必要性を述べた。
瘀血と骨盤について述べたが、若年にはじまる老人性変形や、更年期以後に発見される腰椎の骨粗鬆症も、30才頃から50才頃までの間に於て、恥骨・坐骨に骨萎縮や変形として若年時代からはじまっていることを症例をもって提示した。そして、30才、40才代から骨粗鬆症の予防医学を用意する必要があることを説いた。
瘀血老人の腹証について述べた。
腎を中心とした病態像とその治療について、相生的腎虚と相剋的腎虚とその治療方剤について述べた。老人に於ては、不眠、健忘、老人性痴呆の証に応じた治療が大切である。
脳卒中殊に脳梗塞の予防と治療について、特に痰涎を伴う中風の予防について、症例を提示した。
補養・養老の方剤について、又延年の方、特に枸杞の服用法について、医心方の記述を紹介した。
葉枕;殊に菊花、決明子の葉枕についての経験を述べ、現在の中国の現状にも少しくふれたが、葉枕や貼布剤の研究も無視されてはならないと思う。

13. 結語
老人として、老人病にならないようにする予防医学の立場から、男女にかかわらず、幼・青・壮年時代に東洋医学的診断法を重視して弁証することの必要性を述べた。
老人病に於て、瘀血と骨・腎・脳機能を関連したものとして考察することの重要性を確認するに至ったが、それは血液、血流を大循環、小循環、微小循環の面からみるばかりでなく、組織間の体液循環、殊に、脳脊髄液流及びその圧と痰涎、眩暈などが、脳梗塞の予防治療に於て甚だ重要であることを痛感した。
医学の質的向上のためには、西洋医学的科学認識のみならず、東洋医学的認識論を無視してはならない。さもないと、理想的治療医学、予防医学の確立とは縁遠い存在となることを痛感する次第である。

【文献】
小川新:下腹部瘀血と腰椎骨盤のX線像について 瘀血研究Vol.1 p.93-106,1982 ; Vol.3 p.193-203,1985.自然社
本間祥白:難経の研究.p.198-221,1965・医道日本社
岡本一抱:医学正伝或問諺解.5巻第19.1728.盛文堂
佐藤昭夫:骨の加齢.p.83-130.1987.藤田企劃出版社
曲直瀬道三:新版衆方規矩.p.81-87.1984.燎原書店
浅田宗伯:諸狂失心;類聚全.p.142-144.1973。長尾幸兵衛商店(広島)
上海中医学院:老人性痴呆;中医秘方大全 p.769-771.1989。文匯出版(上海)
丹波康頼:延年の法:方養生篇(現代訳)p.11-25.1987.出版科学綜合研究所
甲賀通元:中風;訓古今方彙.p.1-13.1984.医聖杜
岡本一抱:菊花;本草綱目.上巻(巻八)p.547-549.1698.春陽堂

小川新
1990年第9回瘀血総合科学研究会シンポジウム「老人病と瘀血」
[2007.2.25]

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